移乗の介助で腰を痛めない — 国の指針は「抱え上げない」が原則
厚生労働省の腰痛予防対策指針は、介護の現場について「原則として人力による人の抱上げは行わせない」と書いています。持ち上げずに移す方法、ベッドの高さ、体の使い方、そして誰に実演してもらうかを整理しました。
ベッドから車いすへ。車いすからトイレへ。
在宅介護で一日に何度も繰り返す動作です。そして、介助する側の体が痛むのは、たいていここです。
国の指針は「持ち上げるな」と書いている
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」には、介護の作業についてこう書かれています。
全介助の対象者にはリフト等を積極的に使用し、原則として人力による人の抱上げは行わせない
これは職場(介護事業所)に向けた指針で、家庭の介護を直接縛るものではありません。それでも、痛む体のほうは同じです。
指針が想定しているのは、コツを覚えれば持ち上げられる、という話ではありません。持ち上げること自体をやめるという方向です。
持ち上げずに移す
指針は、相手の状態に応じた道具を挙げています。
| 相手の状態 | 使うもの |
|---|---|
| 座った姿勢を保てる | スライディングボードなど |
| 立った姿勢を保てる | スタンディングマシンなど |
| 全介助 | リフトなど |
「うちには無い」で終わらせなくて構いません。 これらは介護保険で借りられる範囲に入るものがあります。ケアマネジャーか福祉用具の事業者に「移乗が負担なので相談したい」と伝えるのが入口です。
介護ベッドや車いすと同じく、買う前に借りられないかを聞くのが先です。
道具の前に、環境を変える
指針は、道具と並べて作業環境を挙げています。こちらは今日からできます。
- ベッドの高さを変える——低いベッドは、前かがみを強制します
- 位置と向きを変える——車いすをベッドに対してどう置くかで、動きの量が変わります
- 作業する空間を確保する——横に回り込めないと、体をねじる動きになります
- スライディングシートを使い、前かがみとねじりを避ける
前かがみと、ねじり。 この2つが指針の名指ししている姿勢です。
介護ベッドの高さ調節は、たいてい付いています。使っていないなら、そこが最初の一手です。
体の使い方(ボディメカニクス)
道具と環境を整えたうえで、体の使い方があります。
- 足を開いて立つ——支える面積が広いほど安定します
- 腰を落とす——重心が低いほうが崩れません
- 相手に近づく——離れているほど腰への負担が増えます
- 体をねじらない——向きを変えるときは、足ごと動かします
- 腕ではなく、脚と体幹を使う
ただし、正直に書いておきます。
これは負担を減らす方法であって、なくす方法ではありません。 指針が道具を先に挙げているのは、そういう順番だからです。体の使い方だけで、全介助を毎日続ける前提にはしないでください。
一度、実演してもらう
文章で読むのと、やってみるのは別です。
訪問リハビリテーションの理学療法士・作業療法士は、その家の間取りと、その人の体でやり方を見せてくれます。ベッドの位置、手すりの場所、どちらの足から動かすか——家に合わせた答えは、そこでしか出ません。
ケアマネジャーに「移乗のやり方を見てもらいたい」と伝えれば、組める場合があります。家族から言って構いません。
福祉用具の事業者も、レンタル品の使い方は実演してくれます。
パーキンソン病の場合
動きの調子が時間帯によって変わることがあります。薬が効いている時間と、そうでない時間で、同じ動作の難しさが違う。
「昨日できたのに」は、腕が落ちたわけではありません。
だから、うまくいった日の条件を残しておくと役に立ちます。何時ごろだったか、どの向きから介助したか、声をかけたか。次に同じ条件を作れます。
ただし、どの時間帯にどう動くかという判断は主治医の領域です。動きの変化が続くようなら、記録を持って相談してください。
手すりと床
移乗そのものではありませんが、隣の話です。
手すりは介護保険の住宅改修で付けられます。移乗の場所(ベッドわき・トイレ・浴室)に何があると楽かは、実演のときに一緒に見てもらえます。
この記事で扱っていないこと
その人にどの移乗方法が適切かは書いていません。体の状態によって変わり、理学療法士と主治医が見る領域です。
ここで整理したのは、相談する前に知っておくと話が早くなること——国の指針が「持ち上げない」を原則にしていること、道具と環境が先に来ること、実演してもらえる相手がいること、の3つです。
CareQuest は、その日にできたことを短く残すための記録アプリです。移乗の方法を判断するものではありませんが、「この向きだとうまくいった」「この時間帯は難しかった」を短く残しておけば、次の相談に持っていけます。無料・登録なしで開けます。
参考: 厚生労働省 職場における腰痛予防対策指針及び解説
ご注意: この記事は、移乗の方法や腰痛の治療についての医療的な助言ではありません。引用した指針は職場(介護事業所)に向けたものです。その方に適した移乗の方法は、理学療法士・作業療法士・主治医にご相談ください。

今日も、読んでくださってありがとうございます。